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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)1828号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人丹篤の上告趣意について。

少年の刑事事件において、少年法第六四條第一項に基く同法第三一條の調査の重要性を等閑に付すべきでないことは、まことに所論のとおりである。しかし、その調査の限度、方法等は、諸般の事情に應じ事実裁判所の適當に決するところに一任すべきものであって、少年の身上に關する事項の調査は、裁判官自らこれを爲すと少年保護司に嘱託してこれを爲すとを妨ぐるものでないこと同第六四條第二項の規定によって明瞭である。また心神の状況については成るべく醫師をして診察を爲さしむべきことは同第三一條第二項の規定するところではあるが、裁判所が直接取調をするを以て足る場合もあるべく、その他の事項についても必ずしも公判廷において證據調を爲すの要なく一件記録を精査するを以て足るものといわねばならぬ。そして、本件においては、記録中に所論小学校長作成の被告人に關する在学中の成績、性行、身體状況等の調査原簿寫が存在し、なお、原審公判調書によれば本件につき原裁判所は、直接被告人を取調べ事件の關係の外その学歴、経歴、家族關係、資産、収入等を第一審第一回公判調書並びに所論被疑者訊問調書を讀聞かせて訊問したことを認め得られるから、前記調査原簿寫を公判廷に顕出して被告人の意見辯解を求めず且つ右訊問調書の作成者の署名下に捺印が缺如していたとしても少年法第三一條所定の調査をしなかったとはいえない。所論は、結局原審の自由裁量に属する事項の非難に歸するから、法律審適法の上訴理由として採ることができない。

よって舊刑訴第四四六條に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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